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2021
​Lacteeth

虫歯予防のための口腔内用
組換えプロバイオティクスの開発

日本の虫歯問題

WHOの統計によると、世界の虫歯罹患者数は23億人と言われており、虫歯は多くの人が悩まされている病気の一つです。日本においては、以前と比べて虫歯になる人の割合は減っているものの、年代別に見ると、近年65歳以上の虫歯罹患者数が増加しています。(図1)歯の健康は健康寿命に大きく関わっているとも言われ、高齢化社会が進んでいる現代の日本では重要な課題の一つとなっています。

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図1

​プロバイオティクス

そこで、この問題を解決するための方法として

私たちが注目したのが、

”プロバイオティクス”です。

プロバイオティクスとは、有益な機能を持つ

微生物、およびそれが含まれる食品や

サプリメントなどのことを指します。ヨーグルトなどに含まれる腸内細菌が有名ですが、私たちは口腔内をターゲットとした新しいプロバイオティクスを作れないかと考えました。人体に害を及ぼさず、口腔内で生存するのに適している乳酸菌を用い、遺伝子組換えによって新たな機能を付加することで、虫歯予防効果を発揮するような遺伝子組換えプロバイオティクスをデザインすることにしました。この方法は、従来の歯磨きやプラーク除去による虫歯対策のアプローチとは異なり、細菌叢に着目することでより根本的、持続的な効果が期待でき、新しい虫歯予防の先駆けになるのではないかと考えます。

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​プロジェクト概要

私たちは遺伝子組換えによって、新たに二つの機能を乳酸菌に持たせようと考えました。一つは、組換え菌が虫歯の原因となるバイオフィルムに定着することができるようにするためのものです。バイオフィルムの主成分である、グルカンに結合するタンパク質(GbpC)を乳酸菌表面に発現させ、バイオフィルム内に定着させることで、持続的にバイオフィルム特異的な効果を発揮させようと考えました。もう一つの機能は、虫歯の原因菌であるStreptococcus mutansに対する抗菌作用です。S.mutansに対して抗菌効果のある化合物を乳酸菌体内で合成、分泌させることでS.mutansの増殖を阻害しようと考えました。抗菌物質としては、乳酸菌の体内で合成可能であり、かつ人体に害を及ぼさない物質である必要がありました。そこで、シンナムアルデヒド という天然化合物と、バクテリオシンという腸内細菌の1種が作る抗菌物質を用いることにしました。どちらも乳酸菌の体内にある材料から合成することができ、S.mutansに対して抗菌効果を発揮することを確認しました。シンナムアルデヒド はシナモンに含まれる成分であり、バクテリオシンは牛の乳に含まれるものであることから、人体に害を及ぼさないと判断しました。

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​今後の展望

今回私たちは口腔内をターゲットにすることを踏まえ、宿主菌として乳酸菌を用い、遺伝子組換えを行いましたが、遺伝子組換え生物を実験系ではなく、環境中で使用することは現段階では法律によって禁止されています。(そのため今回は実験系で効果の検証をするのにとどまっています。)天然には存在しない、人工的に遺伝子を組換えた生物が環境中に広まり、思わぬ影響を及ぼすことを防ぐためです。ですが、今回のプロジェクトのように、有用な遺伝子組換え体は様々な問題解決のアプローチに応用できると考えています。そのため、どうしたら安全に遺伝子組換え体を使用することができるのか考え、専門家に意見を伺うといった活動を通してバイオセーフティーの問題とも向き合いました。科学を専門としない一般の方々にも遺伝子組換えについてもっと知ってもらい、遺伝子組換え技術が正しく安全に使われ、社会に受け入れられるにはどうしたら良いか、今後も考えていきたいです。

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