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Turing Patternとは

  錦鯉は美しい白と橙のコントラストが印象的な、日本を代表する魚です。その模様は1匹ずつ微妙に異なり、私たちを飽きさせません。

 しかし、いったい何がこの模様の違いを生むのでしょうか。この美しい模様はどのように描かれるのでしょうか。

 その疑問に答えたのは、イギリスの数学者Alan Turingでした。彼の提唱したTuring pattern理論は動物の模様がいかに形成されるのかを見事に説明します。

 Turingが1952年に発表した論文“The Chemical Basis of Morphogenesis” (形態発生の化学的基礎)では、動物の形態発生の数理モデルが提案されています。「形態発生」とは、生物の形や模様が形成されることを言います。このモデルの基礎として次のような反応拡散方程式が提案されました。(論文による生物学的解釈)

 

 











 



 Turingは、物質の「反応」と「拡散」という現象が形態発生において重要であると考えました。

 活性因子は、活性因子と抑制因子の両方を活性化するという性質をもちます。一方で、抑制因子は活性因子を抑制します。ここで重要なのは抑制因子のほうが活性因子よりも拡散速度が速いということです。これらの性質により、動物の形や模様が自律的に形成されていくのです。

Turing Pattern の仕組みについて詳しくはこちら

 Turing patternを魚の模様に見出したのは大阪大学の近藤滋氏でした。彼は、Turing patternでは周期的な模様の間隔が変化しないことに注目し、タテジマキンチャクダイの模様がTuringの理論で説明できることを発見しました。

 

 この理論が1952年に世に出てから、数多くの先駆者によってTuring patternを再現しようとする試みが行われてきました。しかし60年以上経った今でも、これを人為的に完璧に再現することはできていません。iGemにおいても、合成生物学を駆使したTuring patternの再現が試みられてきました。

 

 そんな中で私たちiGem TokyoTechは、過去に使用した経験のあるAHLに着目し、これをTuring pattern形成に応用できないかと考えました。Turing pattern形成へのAHLの利用は、2018年にDavid Karingらが報告しています。

 

Turing Patternを再現する試み

 David Karingらは遺伝子回路(図1)を設計し、大腸菌に組み込むことで、大腸菌に赤と緑の蛍光物質(dsRedとGFP)を発現させながらTuring patternを形成させました。

 
図1 Daving Karingらが設計した遺伝子回路

 

 Turing patternの形成には、拡散の遅い活性因子と拡散の速い抑制因子の組み合わせが必要です。Davidらは二種類のAHLシグナル分子を活性因子と抑制因子として利用しました。具体的には、拡散の遅い活性因子にLas I、拡散の速い抑制因子にRhl Iを利用し、それらの相互作用により大腸菌にTuring patternを形成させました。

遺伝子回路の詳細についてはこちら

 彼らはIPTGの添加により制御できるtoggle switchを構築しました。Toggle switchとは、遺伝子発現の切り替え(ここでは、大腸菌が発現する蛍光物質の色の切り替え)ができるシステムのことです。IPTGがない時は、「緑の細胞群」の中に「赤の細胞群」がスポットとして形成されます(図2、左)。一方、IPTGを添加すると、GFPが発現されやすくなり、「緑の細胞群」の割合が増えます(図2、右)。添加されたIPTGが消費されると、再び「赤の細胞群」の面積が増え、元のパターンに戻ります。

 

 

 

 

図2 IPTG依存性toggle switchと形成された細胞パターン

   IPTGがないとき(左)、IPTGを添加したとき(右)

IPTG依存性toggle switch(図2)の詳細についてはこちら

彼らはtoggle switch(ここでは、色の切り替えるスイッチ)としてIPTGを用いていますが、これは人間が後から加える化学物質であるため、自然な環境下でのTuring patternの形成とは言えません。

 

真に自然な環境下でのTuring patternの再現はできないか、そう考えた私たちは「温度」と「光」に着目しました。

2019 Project

 私たちTeam Tokyo Techは「光」と「温度」によりtoggle switchを制御し、大腸菌にTuring patternを形成させるということを目標にしました。そこで私たちは、光応答性のBlu遺伝子制御システムと、温度応答性のpColdプロモーターを利用し、それぞれの遺伝子回路を設計しました(図3、図4)。

 
 

 

図3 光応答性の遺伝子回路と想定された細胞パターン。

   青色の光の照射がないとき(左)、青色の光の照射下(右)。

 

 まず、私たちは「光」で大腸菌にTuring patternを形成させるために、光応答性のBlu遺伝子発現システムに着目しました。このシステムを利用することで、IPTGの代わりに「光」で細胞パターンを制御することができると予想されます。

光応答性のBlu遺伝子発現システムについて詳しくはこちら

 

 また、私たちは温度応答性のpColdプロモーターを用い、「温度」で大腸菌にTuring patternを形成させることにしました。pColdプロモーターは18℃以下になると遺伝子発現が始まるという性質があります。この性質を利用し、「温度」でtoggle switchをコントロールすることで、細胞パターンを制御することができると予想されます(図4)。

 

 

図4 温度応答性の遺伝子回路と予想された細胞パターン。 

   18℃より高い温度のとき(左)、18℃以下のとき(右)。

 

 暖かいときと寒いとき、明るいときと暗いとき、この環境の変化を捉えて、描く色を選択するシステムを構築することで、人が手を加えることなく、自発的に模様が描かれていくでしょう。これが私たちの目指すところです。

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反応拡散方程式

 

∂u/∂t= ∆u+f(u,v)

∂v/∂t= d∆v+g(u,v)

 

u: 活性因子濃度
v: 抑制因子濃度

d : uの拡散係数に対するvの拡散係数の比

f, g: 反応項

Δu, dΔv: 拡散項

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